特別連載&インタビュー #6 「誠光社」編【無料版】

vol.42 | 2022年10月14日

創刊前にニュー・カラーのモックアップを持って誠光社の扉を開いてから、店主の堀部さんには種々のアドバイスをもらってきた。本の内容だけでなく、流通の仕方やプロモーション施策まで。自分の中でなにか悩むととりあえず堀部さんに聞いてみるというルーティンができているほど。どうやってNCを仕事として成立させられるか?イコール本を販売することだから、堀部さんに“売る仕事”について聞いてみた。

アフターコロナ、書店の現在

加藤:コロナ禍を経た動きや変化について教えてください。

堀部:自分の本(『火星の生活』)を出したのは、コロナ禍の2年間のダメージが大きかったから、一番原価率の低いものをという考えからです。著者も自分で、もともとある連載をまとめたもので、それをつくって2年間の負債の穴埋めにしようと。Tシャツとかトートバッグがもうどこもやっているので面白くないと思っていましたし。本屋は仕入れて売るだけだからどこも似てくる。だから自社製品をつくるのは当たり前ですね。珈琲で言えば自家焙煎みたいに。他業種では当たり前のことですけど。

加藤:ミニコミやzineのようなものではないところが堀部さんらしい。

堀部:知り合いの編集者に編集料を払って、構成を一緒に考えてもらいました。雑誌などに提供したテキストを書き直して。

加藤:売り方は?トランスビュー(直販型の取次)、一冊!取引所(本屋と版元をつなぐサービス)、書店への直接販売と売り方が乱立しているイメージです。NCも全部やっていますが。

堀部:『火星の生活』のようなドメスティックなものは直販のみでいいですね。ISBNもつけていない。出版物の規模に合わせて適正なものを選ぶべきだと思います。

加藤:部数によって可変する。

加藤:大事なのは規模感と。ここに届けたいからこの方法を取ろうと戦略的に考える必要がある。チャネルが増えているいまだからこそ。

堀部:夏葉社の島田さんとかはそのことに自覚的ですね。販路を増やしたくないという話もしますし、知らないところから注文がきたら困るまで言うし。販路を知ることと決めること。彼が一人でやっているから判断できることです。

加藤:夏葉社は直販メインですよね。一軒一軒本屋さんをまわって、置きたい店を自身で決めているというのを聞いてすごい行動力だと。全国的に独立系書店が増えているいまだからこそ自分ももっと店主とコミュニケーション取ろうと思いました。

堀部:売り方の選択肢が増えていますが、欲を言えば直取引と大手取次の間くらいのものがもう少し厚くあるといいです。その中間くらいの取次が増えれば、例えば人文書中心に、直取引にも大手取次にも対応する、亜紀書房くらいの中間規模の版元が、売り方を選択しながら成立しやすい状況になるんじゃないかな。

加藤:堀部さんの人間関係で500冊ははけるとおっしゃっていましたが、NCが出した『導光』は1000部なんですね。トランスビューが500冊で、直販で300冊、作家への預けが200冊です。現状直販で150冊しか売れていません。トランスビューが200冊くらい。全然営業がうまくいってなくて……。

堀部:それは少ないですね。加藤さん(NC)がつくっているものを見ればわかりますけど、結局加藤さんは売る方じゃなくてつくる方にしかベクトルが向いていないです。『導光』だってもう少し書店への説明や帯に「リソで刷ったものをオフセットにしている」とか「被写体と写真家が共鳴していって“工芸に近づいていく”」という強いコンセプトを押し出して、版元自体もそれを体現しているということがわかればもっと関心が高まると思います。

加藤:おっしゃるとおり過ぎて言葉がありません……。本屋さんに伝わらないものは読者にも当然届かないですよね。

堀部:まず、売り手である本屋が本文をしっかりと読み込まないと理解できない本なんですね。今回みたいに展示とかすれば読み込むから理解できるのですが。言語化して、例えばSNSなんかで発信しづらいものは注文できないですよね。

加藤:直販用の資料には書いたつもりなんですけどね……。

堀部:それは読みましたよ。でも本を読み込まないと理解できない。加藤さんはつくる方にベクトルを向けていていいんですよ。誰かもう一人、加藤さん「これじゃわかんないですよ」って言う人がいれば。

加藤:しばらく経ってから「ああ、そういう意味だったですか!」と言われることが多くて。

堀部:でしょうね。バイヤー目線で考えられる人がいれば解決しますよ。

多様化する売り先への対応

加藤:今一番独立系本屋さんが仕入れるのに便利なのはなんですか?

堀部:トランスビューの「Book Cellar(ブックセラー)」ができてから便利になりました。でもせっかくいいのに、「Book Cellar」上からオーダーできない、トランスビュー経由で仕入れられない本までリストに入っているので、オーダーする側がこの版元はカート式で注文できる、この版元は直取引申請が必要といった具合に分かれていないので一括で買えないんですね。自分はだいたい注文できる版元が頭に入っているので、一括で注文できますが。

加藤:買い手が求めているものを理解して実装したサービスが残る。

堀部:「Book Cellar」のいいところはカート式なので、1冊単位でも注文できるし多数の版元を相乗りで注文できる。でも「一冊!取引所」は相乗りでは注文できない。メールのやりとりを「一冊!取引所」がカートにしているだけなんですね。

加藤:NCを売ってるからわかりますが、結局請求書を送ったりアナログなやりとりが発生する。では現時点ではBook Cellarが一番使いやすいということですね。版元を横断して相乗りもできるし、5冊からとかの縛りもないし。いろんな版元の本をどんどんカートに入れて注文できるのがいい。前述したBook Cellarでしか登録していない版元の本も一括注文できるようになれば。

堀部:そうですね。でも「Book Cellar」もまだ一覧がわかりにくいし、サイトのデザインがイマイチ。デザインは一冊!取引所の方が優れています。

加藤:トランスビューと一冊!取引所で用途が被りますね。

堀部:後発の一冊!はもっとカラーのある問屋になるべきです。普通にビジネス書の版元も入ってきている。選んでいないということ。どこにも売っていない、ISBNもないリトルプレスも含めて取りまとめて特化すれば面白いと思います。

加藤:たしかに。誠光社やNCは両方の要素がある。ISBN付きはBook Cellar、ISBNなしのアーティストブックは一冊!でしか買えないとかにできれば差別化できます。

堀部:そうですそうです。

……【無料版】はここまで。続きを読みたい方はコミュニティにご参加ください。

text: Naonori Katoh