「デザイン」のためのリサーチ#5 ソ連の地下出版「サミズダート」【前編】※無料版

vol.23 | 2022年7月22日

2022年2月、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻がはじまった。それに関連して、ロシア国内ではSNSの使用や国外メディアサイトへのアクセスが制限され、「戦争」という言葉を使うことは国家への反逆とみなされる状況が続いている。しかし、こうした状況下でも、VPN(バーチャルプライベートネットワーク)などを駆使した“抜け道”は存在する。今回は旧ソ連時代に普及した地下出版「サミズダート」について紐解き、インターネットが普及する以前に反体制運動として用いられていた「出版」の在り方について考察していく。

投獄されるリトルプレス

ロシア国内では、通信を暗号化したうえで国外のサーバーにつないで検閲を回避するシステム「VPN」が、ウクライナ侵攻後の1ヶ月間で約4倍と急増。現在はFacebookにログインするのもInstagramで“いいね!”を押すのもVPNを経由する(しかし投稿のなかで戦争反対を謳うことや戦争の現実を語ることは犯罪とみなされる)。そんな現代のVPNと同じく、旧ソ連時代に国民が国家の統制から逃れる“抜け道”として用いていたのが、国営出版社や検閲局の関与なしに制作された非公式な印刷物「サミズダート」だった。

当時のソ連は反体制運動を制限するため、出版物に対する厳しい検閲を行なっていた。版元は国営の出版社に限られ、刊行物はすべて国のチェックを受けていた。サミズダートはそうした公式ルートでは禁書扱いとなった印刷物、または秘密裏に制作された文書のことで、ほとんどは手作業で複製され、人から人へ手渡しで流通していたという。文学者、ウラジミール・ブコフスキーはサミズダートを「私は自分自身でそれを創作し、編集し、検閲し、出版し、配布し、そしてそれのために投獄された」と定義した。投獄されることを抜かせば、現代の自費出版やリトルプレスとほぼ同義である。

Samizdat Chronicle of Current Events No 22 Cover and pages

「サミズダート」のビジュアル

当時はコピー機、印刷機、さらにはタイプライターまでもがKGB(ソ連国家保安委員会)の管理下にあったため、サミズダートのほとんどは手書きで誤字脱字が多く、ページはしわくちゃで、表紙は目立たないものだった。それほどまでにボロボロの造本にした理由は、印刷機が使えなかったことや資源不足に加えて、検閲の目から逃れるよう目立たないようにするためでもあった。

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text: Daisuke Kano / edit: Mitsuki Maru

**【後編】につづく**