雑誌ができるまで #4 ベルリン&アムステルダム日記②【無料版】
vol.9 | 2022年6月1日
vol.9 | 2022年6月1日
「ベルリン&アムステルダム」の取材日記2回目。アートブックフェア〈MISS READ〉に参加した様子や感想を記しておく。なにができて、なにができなかったか。伝わったもの、伝わらなかったもの。はじめての海外でのブックフェアを終えて——直後の思いをそのまま残しておきたい。
加藤:いやー、終わったね。まずは、MISS READ 3日間おつかれさま。想像と違った?
加納:うーん……そうですね。もう少し買う意欲が高い人たちが集まるのかと思っていました。
加藤:お祭りっていうより、結構淡々としている人が多かった。成熟しているとも言えるけど、日本とは根本的な土壌が違うと感じた。
加納:僕らの知る東京をはじめ、アジアのブックフェアは欧米の後発だから、まだ、わいわいやっている感じがあります。もうちょっとマーケット感が強いというか。MISS READに出てみて、やっぱりアーティストブックにルーツのある土地柄なんだなと思いました。日本だとイラストやZine、リソグラフを使ったグッズのほうが人気だけど、出展者もコンセプチュアルなアートブックを出している人が多かった。あと理論的な文章ものとか。
加藤:逆に日本では、コンセプチュアルなものや理論が前に出ているものはあまり表に出てこない。乱暴に言えば売れないから。例えば旅行本でも『地球の歩き方』と『ロンリープラネット』の違いを見れば明らか。前者は文章が少なくて写真がふんだん、後者はほぼ文章だけ。情報に辿り着く手段の違いだと思うけど。
加納:理論とデザインを組み合わせて優れた本を出版していたのがかつての工作舎でした。編集工学を掲げて知と本のあり方を更新しようと。工作舎って名前自体ワークショップの訳語なんですよね。協働することを前提にしている。日本ではすごい影響力でしたが、その面白さがうまく輸出できてなかった気がします。
加藤:英訳されてないんだ。工作舎の出版物は、海外でも受け入れられたと勝手に思っていた。
加納:あまり。日本語のタイポグラフィを追求していたこともあってその前提でつくられてもないし。今回の出展者の中にもアフリカの出版物がありましたが、出版の意義は理解されてもまだその面白さは伝わっていない印象でした。
加藤:これからなんだろうね。たしかにデザインとか装丁とかでまず負けてしまうから、意義まで辿り着かない、ヨーロッパの人がアクセスしやすい環境ではないね。まだまだ「日本枠」や「アフリカ枠」から飛び出せてないよね。
加納:そうですね。MISS READは主催にアートセンターが関わっていることもあって、出版に対する議論を意識的にしていますよね。出版はアジテーションや検閲をはじめ、政治に絡むことも多い。加藤さんは実際に海外の方に見てもらった印象はどうでした?
加藤:見ていく人はいっぱいいたけど、もっとちゃんとプレゼンテーションの仕方を考える必要があったね。英語版をアップロードすることで、少しは見るきっかけになってると思うけど。自分としてはオフセットとリソグラフを融合させたり、ビジュアルで伝わるはずだと思っていた部分がある。大いなる勘違いだけどね。
text: Naonori Katoh
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